脳梗塞後遺症の治療について (抗血栓療法下の神経ブロック治療)

脳梗塞後の片麻痺、片側上下肢痛は治らないの?

脳血管障害後の後遺症は、リハビリが重要です。
但しリハビリで回復できなかった症状は、時の経過に任せるのではなく、星状神経節ブロックが有効なことがあります。

1、脳梗塞後の片側上下肢の痛みと痺れに対し、星状神経節ブロックが、症状改善に有効であった症例を経験しました。
2、過去の治療経験に照らし、梗塞が斑状で均一な梗塞巣を形成していない症例で、治療効果が得られ易いと考えます。
3、脳梗塞後になされる抗血栓療法下での星状神経節ブロックは、相応の準備をして行えば、治療を諦めるほどのリスクとはなり難いと考えます。

以下、上述の詳細を記載します。
1、患者さんは、糖尿病、高血圧症、高脂血症を罹患中の59歳 男性。2023年7月23日に生じた右手の動かし難さが気になり、翌24日 職場近くの総合病院を受診。頭部CTを撮るも、異常なしと診断され帰宅。25日 右上肢だけでなく右下肢も動かし難くなり、自宅近くの総合医療センター 救急外来を受診し、頭部MRI検査で急性期脳梗塞(橋延髄移行部 腹側中央からやや左側)と診断され入院。その後、投薬・リハビリ等を受け右上下肢は動くようになるが、右上下肢に痛みと痺れが残り、同センター 脳神経内科の紹介で、2024年3月11日 当院初診となりました。
 クロピドグレル硫酸塩(プラビックス)による抗血栓療法を継続したまま、初診の3月11日より 左星状神経節ブロックを始めたところ、18日「(右上下肢とも)痛いのからダルイ感じになってきた。」、25日「右指先に感覚が戻っているように時々感じる。足の痛みは大分減り、痺れが中心です。」、4月1日「手の痛みは減った。」、4月30日「今朝、右足の指先の痺れが無く、嬉しかった。午後、また痺れが出てきた。波がある。」、6月17日「痛みは殆ど気にならない。痺れが気になる。特に、右手掌の痺れが気になる。」、6月29日「痛みは8割方良くなったが、痺れが残っている。」、7月6日「痺れも少し良くなってきた感じがする。7月9日「痛みは殆ど無い。痺れも少しずつ良くなってきている。足より手のほうが痺れる。」、7月13日「(手の)痺れも少しずつ良くなってきている。」との患者さんの話しを聞くことができました。
*脳梗塞後の症状改善は、星状神経節ブロックのもたらした頭蓋内血流改善によるものと考えます。  

2、脳血管障害後の片麻痺、痛み、痺れの治療を10例余 経験しました。症例報告を書くほどに改善したものは1例、他覚的に改善したものが1例、納得してもらえたものが1例、他の症例は 殆ど無効もしくは治療効果を自覚してもらえず早期に治療を終了しています。症例数が少なく、統計的処理は行えませんが、症状改善を得た3例、そして本症例を含む 計4例は、梗塞が斑状で均一な梗塞巣を形成していませんでした。一方、症状改善の得られなかった症例は、殆どの症例で均一な瀰漫性の梗塞巣を形成していました。他にも、患者年齢が65歳未満、発症より治療開始までが相対的短期などの傾向もありましたが、例外もあり、梗塞巣の斑状だけが、明確な違いでした。
梗塞巣が均一な梗塞でなく、斑な梗塞巣であれば、星状神経節ブロックにより、後遺症の改善する可能性があります。

3、抗血栓療法を中断せずに、星状神経節ブロックを行いました。
 施術後に生じうる深在性血腫による気道狭窄もしくは閉塞を怖れ、抗血栓療法中は、星状神経節ブロックを行わない施設は少なくありません。
 一方、各種疾患への積極的治療の進歩に伴い、抗血栓療法を受けている患者さんは、特に高齢者で、増えています。助けられる患者、治療手段のある疾患について、抗血栓療法を受けていることを理由に、星状神経節ブロックによる治療は行われていないのが、現状です。今後も、これが通常とならないことを期待しています。
 ワルファリンカリウム錠(ワーファリン)以外の薬剤による抗血栓療法であれば、可能な準備を行い、対応を調整した上で*、星状神経節ブロックを5000件以上行ってきましたが、事故は1件も経験していません。
*ここでいう準備、対応とは、①皮下血種の生じる可能性について患者に説明し、同意を得る、②主治医と 休薬できるか、抗血栓作用の弱い薬剤への置換が可能か を相談する。短時間作用性薬剤、例えば エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)であれば、朝食後内服を、朝9時の治療終了後内服に変更する。③施術後5~7分の圧迫止血は、患者に任せず、圧迫を担当する人員を確保して施術に臨みます。④oozing bleeding:注射筒先に僅かに滲み残った血液を見つけた場合、小型のアイスパックにより10分の圧迫止血と1時間の経過観察を行います。
* 医療行為は誰が行うかで、リスクは異なってきます。施術担当者の経験と技量により、安全性が異なることは議論の余地がありません。
 盲腸摘除術の術後に、患者さんが亡くなることは、極めて稀ですが、あります。だからといって、盲腸摘除術を行わないことはありません。医療行為は術者の技量、施術のリスクと必要性を勘案してなされるものです。
全ての医療行為と同様に、神経ブロック治療について「抗血栓療法を受けている患者に行うことは、一律危険」とするのは如何なものでしょう。

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