患者様が見つけたCRPS

 複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)の存在が、以前より知られるようになったせいなのでしょうか。患者自身、もしくは家族が、病状を調べ、来院される事例を経験するようになりました。
 以下は、上腕骨骨折整復固定術を受けた後、次第に前腕の痛みが増悪し、色調も暗紫色となったため、長女様が、治癒しない症状を調べ、担当医師に紹介状作成を依頼して来院された症例(70代女性)です。
 2023年5月、ベッドから転落し、左上腕骨骨折を受傷、三角巾で上腕骨を固定する保存療法を受けました。
 受傷1ヶ月後に左上腕の痛みは消失しましたが、骨折部ではない左前腕の痛みが消えずに残り、受傷後2か月ほどで、ピリピリした痛みが強まりました。リハビリ治療を受けるも、左前腕部の疼痛は改善せず、執刀医、リハビリ担当医の何れからも原因は分からないと言われたそうです。
 長女様が、CRPSを疑い ネット検索で調べ、加療を希望されて、10月初旬 当院初診となりました。
 初診時、➀左前腕内側中心にピリピリした痛みがあり、非ステロイド性消炎鎮痛剤では痛みが取れず、②左前腕はいつも汗ばんだ感じで、「じめっとした不快感」を訴えておられました。更に、③肘より5㎝離れた前腕周径は左手で細く、X線で左橈骨、尺骨、手根骨の骨量は健側である右側に比し、低下していました。[Fig.1]

 初診日に、交感神経ブロックである星状神経節ブロックを行ったところ、ピリピリした痛みがなくなり、皮膚の色も暗紫色が明るいに色調に改善しました。星状神経節ブロックを続けたところ、10月12日「痛みは減っている。」、10月14日「前腕の痛みは殆ど無い。」、10月19日左前腕の色調はさらに改善し、11月16日左前腕の色調の更なる改善を認めました。    
 初診より一か月程で痛みはなくなり、二か月以降に骨量の回復、左前腕皮膚色調の改善が得られ、四か月ほどで日常家事を行えるまでに回復することができました。
 患者様が改善、治癒を主観的に感じるだけでなく、初診時と治療4か月後の皮膚の性状、骨量X線画像所見で客観的な改善を認めることができました。[Fig.2]

① CRPSの病態を局所での交感神経緊張亢進と考えるのであれば、神経因性(神経障害性ではありません)疼痛であり、非ステロイド性消炎鎮痛剤は鎮痛効果をもたらしません。非ステロイド性消炎鎮痛剤は侵害受容性疼痛において生じる発痛物質の生成を抑えるものなので、その内服は神経因性疼痛に対しては殆ど無意味です。
② 発汗亢進は局所での交感神経緊張亢進に伴い認められるものです。
③ 骨量低下、その後の骨痩せは、交感神経緊張亢進に伴う局所血流低下を示唆します。

 左指、とりわけ左第4.5指の痺れ感が強く、「受傷後2か月経った頃から腫れた感じではなく、ピリピリした痛い感じが気になり始めた。」ということで、左上腕骨骨折時、もしくは、その後の非観血的固定期間の過程で生じた左尺骨神経(左C8)損傷を契機に発症したCRPS typeⅡと考えられた症例でした。骨折部でなくとも、その遠位部でCRPSが発症することは珍しくありません。

 CRPSは発症早期の治療が必要です。
 外傷、手術を受けて一か月以上が経っても、非ステロイド性消炎鎮痛剤が鎮痛に無効
もしくは、外見に明らかな左右差が生じている場合、CRPSを疑うべきです。

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