複合性局所疼痛症候群(CRPS)の治療の実際

複合性局所疼痛症候群という病気を知っていますか?
1の特徴は 非ステロイド性消炎鎮痛剤が、痛みに対し効かないことです。
2の特徴は 通常予想されるより、不相応に強い痛みが生じることです。
3の特徴は 局所の浮腫、血流障害、発汗障害など交感神経活動に起因する症状が疼痛領域に生じ易いことです。
 

複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)やカウザルギー(causalgia)に代わる概念として国際疼痛学会(IASP)で提唱されました。
 CRPSの病態には不明の点が多いのですが、局所での交感神経系の異常興奮が発症に深く関与しています。
 
CRPSは難治例が多く、2期に移行し、病態として固定完成してしまうと治癒の困難なことが多くなります。治療には早期診断が重要であり、交感神経ブロックが重要な治療手段となっています。
 

症例1

 50台女性の患者様は、転倒時に右第3,4中手骨を骨折されました。K市立病院整形外科で、アルフェンスシーネ固定を受け骨折は治癒しましたが、右第2,3,4指を中心に手掌、手背の腫脹、自発痛、強い冷感が残り、知覚低下も改善しないまま理学治療を受けておられました。骨折より4ヵ月後に当院を紹介され、受診となりました。
 初診時、既に腫脹、冷感があり、患部に骨透瞭像(骨が痩せて、X線で患部の一部が透けて見える状態)を認めました。CRPS2期に移行したか移行しつつあると考えました。
 初診時、交感神経ブロックである星状神経節ブロックを行なったところ、直ちに腫脹が改善し、色調も暗紫色からピンク色に改善しました。当初23時間ほどしか腫脹改善が続きませんでしたが、星状神経節ブロックを繰り返し行うことで、次第に腫脹は軽減し、指に皺が出るようになり、痛みの消失を得ることができました。

 

症例2

 40台女性の患者様は、交通事故で左膝打撲、左膝切創、右下腿打撲傷を受傷されました。切創につきM市立病院で縫合処置を受け、近医で理学治療を受けていましたが、僅かに患部に触れても激痛(アロディニア)が生じるなど、次第に症状は悪化しました。受傷より7ヶ月が経過して、当院を紹介され受診となりました。
 初診時の主訴は右下腿内側尾側部痛、左膝外側尾側の術後創周囲痛および左膝頭側及び尾側の腫脹でした。疼痛の強かった右下腿内側尾側は色調が暗紫色、冷感もあり局所血流の低下を疑わせ、自発痛だけでなく軽く触れても強い疼痛(アロディニア)が生じておりました。
 局所麻酔薬による腰部交感神経試験ブロックを経た後、右L3、右L4腰部交感神経、左L3、左L4腰部交感神経につき高周波熱凝固処理+無水エタノールによる神経破壊を行いました。治療後、初診時に在った骨透瞭像は改善、ほぼ左右差が無くなりました。アロディニアはなくなり、自発痛は自制内となり治療終了となりました。           

 

症例3

 40台女性の患者様は、右踵骨骨折で近医整形外科を受診されました。深部静脈血栓症をCRPSと誤診され3週間、大量ステロイド漸減療法とノイロトロピン投与を受けました。次第に腫脹、疼痛とも増悪し、骨折より4週間後にCRPSとして当院を紹介され、受診となりました。
 消炎鎮痛剤の試験投与で鎮痛効果を認め、侵害受容性疼痛が疑われました。踵骨骨折から僅か 2時間ほどで右下腿内側が腫れてきたそうです。CRPSに認められることの多いアロディニアや痛覚過敏がなく、受傷より腫脹・浮腫発現までの経過も CRPSとしては不自然で、血栓症で認められるHomans徴候が陽性でした。カラードプラエコー検査を受検して頂き、ひらめ静脈血栓症、前・後脛骨静脈完全閉塞が判りました。
 ワーファリンの内服により下腿の腫脹は消失しましたが、足関節以遠の痛みが残りました。初期治療が不適当な場合に生じ易い静脈弁機能不全に伴う血栓後遺症となった症例でした。

 

 

症例1、症例2はCRPSに対し、交感神経ブロックで治療効果の得られた症例です。
患部が乳首より頭側にあると、交感神経を処理することが難しく、星状神経節ブロックを繰り返し行うことになります(症例1)。
患部が乳首より尾側にあると、交感神経である胸部交感神経、腰部交感神経、上下腹神経叢などを神経処理することで症状の改善が得易くなります(症例2)。
 

症例3は、発症直後に血栓症をCRPSと誤診され、残念ながら血栓後遺症が残りました。 

痛みは、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、心因痛に分けられます。これらは混在することも珍しくありません。

骨折、手術などに伴う痛みは侵害受容性疼痛です。殆どの痛みは侵害受容性疼痛で、消炎鎮痛剤が鎮痛に有効です。一方、CRPSなどに伴う痛みは神経因性疼痛で、消炎鎮痛剤は鎮痛に無効です。神経因性疼痛は発症が稀なため、いわゆる「なじみの無い疾患」となり、その治療は専門医に委ねられることが多くなります。 

痛み止め(消炎鎮痛剤)が効かず、漫然と薬を飲み続けている場合は、セカンドオピニオンをペインクリニックに求めることは重要だと考えます。

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