帯状疱疹後神経痛のおけるリスク因子とは?

2012-05-02

帯状疱疹後神経痛におけるリスク因子とは?

 

帯状疱疹後神経痛に移行し難治となるリスク因子は以下の7項目であるといわれます。

1、帯状疱疹部位の皮膚知覚の低下が大きいこと

2、帯状疱疹が広いこと

3、高齢であること

4、免疫不全をもたらす基礎疾患(糖尿病、癌、ステロイド内服中、免疫抑制剤内服中)が在ること

5、帯状疱疹の発症部位が顔面、脇窩であれば難治となり易い。

6、帯状疱疹発症初期に抗ウイルス薬の投薬を受けていない。

7、帯状疱疹後神経痛発症(移行)初期に適切な治療を受けていない。

このリスク因子について私見を述べさせてください。

1⇒帯状疱疹後神経痛が生じている皮膚では無髄線維(C線維)が比較的温存されているのに対し、有髄線維(Aβ線維)の脱落が顕著です。知覚、即ち触刺激は有髄線維(Aβ線維)により伝えられます。知覚低下が大きいということは有髄線維の脱落が大きく、帯状疱疹後神経痛の病態が進行していると考えられます。

2⇒帯状疱疹の発疹領域が広いことは宿主免疫能に比して帯状疱疹ウイルスの活動性が大きかったことを意味するのでしょう。

3⇒高齢をリスク因子とするのに、加齢に伴う宿主免疫能低下を理由とすることが多いのですが、そうであれば、高齢であることは4のリスク因子に包括されるのかもしれません。

4⇒免疫不全の存在が何故、帯状疱疹後神経痛の遷延化、重症化をもたらすのか明確な機序は解っていません。強い痛みに長く苦しむ患者様で、免疫不全をもたらす基礎疾患に罹患されている方が多いという経験則に基づくものと考えます。

5⇒発症部位によって神経痛の遷延化、重症化に違いがあるとする考えに学問的根拠はないはずです。ただ治療する立場から、乳首より頭側に発症した帯状疱疹後神経痛では治療のための神経の永久処理が難しく(治療の話で後述)、早期治癒を得難いということはあります。

6⇒帯状疱疹ウイルスに限らず全てのウイルスについて、殺傷能力のある薬剤(細菌における抗生物質の様なもの)はないのです。現在、医師が使用しうる抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑えるものです。帯状疱疹ウイルスは発症から5日前後で増殖を終えると言われています。従って、この5日間に抗ウイルス薬が投薬されなければ意味がありません。逆に、この5日間に抗ウイルス薬が適切に投薬されれば、非投与時に予想されるウイルスの活動を低い状態に抑えることができます。

7⇒帯状疱疹後神経痛に移行初期にウイルスは太くて髄鞘に覆われた有髄線維を損傷します。その一方で無髄神経(C線維)が温存され、C線維により伝達される疼痛刺激の持続により、脊髄後角にある広作動域ニューロンでの感覚情報処理の異常が生じ、NMDAレセプターを介した脊髄の過敏化がもたらし、耐え難い痛みが出ると考えられています。

異常な痛みに対し交感神経系の関与が始まります。疼痛の強さ、部位の拡がりに応じて交感神経系の活動も活発になりより多くの部位から干渉を受けることになり複雑な神経系を形造るのではないでしょうか。ボヤは地元消防団で対応できますが、大火事のときは隣町の消防隊が動員されることに似ています。

移行初期に適切な神経ブロックを受けることで罹患領域の神経損傷の進行と神経系が複雑化することを抑える。このことが適切な初期治療の目的です。

 


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