腰下肢痛(神経根症)の治療手順

1、最初にやることは、痛いところがどの神経の支配領域なのかを特定することです。神経根症であれば、神経根ブロックで責任神経根(痛がっている神経)を特定することになります。
・神経根症とは、脊髄神経根が機械的な圧迫や外傷あるいは腫瘍,中毒など,様々な原因により障害を受け,痛み,感覚・運動障害等を示す病気のことです。
神経根ブロックは局所麻酔薬と(必要に応じて)ステロイドにより行います。局所麻酔薬の鎮痛効果が5時間ほどで切れたあと、12時間以降にステロイドの鎮痛効果が現れ、10日~2週間ほど鎮痛効果が持続します。
 

2、その責任神経根(痛がっている神経)を調節している交感神経を局所麻酔薬でブロックしてみます。
 交感神経と知覚神経は発生学的に近い関係にあります。良く知られた話として、知覚神経異常である無痛症の患者様の多くが、交感神経異常である無汗症であることも、その類縁性を窺わせます。
 具体的には、腰部交感神経ブロック、上下腹神経叢(しんけいそう)ブロック、不対神経ブロック等の交感神経ブロックを行うことになります。試験目的の交感神経ブロックは局所麻酔薬のみで行うため、その鎮痛効果は5時間~12時間ほどです。

3、交感神経ブロックによる鎮痛効果を確認した後に、その交感神経を処理します。無水エタノール等の神経破壊薬を用いて、もしくは高周波熱凝固法により神経を処理します(*1)。
①、無水エタノールによる神経処理は、玉子酒のイメージです。卵白がアルコールに触れると白濁し、蛋白変性を生じます。蛋白変性により神経の電気活動が抑えられます。
②、高周波熱凝固法による神経処理は電子レンジのイメージです。神経を穿刺した針の内腔に電極を挿入します。電極先が激しく振動し、熱を生じます。
その熱情報をフィードバックして、発熱温度を40~90度の範囲で自由に設定することができます。42度以上で蛋白質の熱変性が始まり、神経の電気活動が抑えられます。神経破壊目的の場合は90度×180秒で神経処理を行います。
ここまでの処置で、鎮痛効果に満足が得られれば、治療終了です。
 

4、上記処理を行っても痛みが残る場合は、症例により神経根を高周波熱凝固 Lower thermo 法(*2)で神経処理する場合、別のレベルで腰部交感神経を処理する場合、薬物治療を行う場合など、個々の症例で異なってきます。 

(*1) 神経処理をすると、圧迫骨折や変形性脊椎症の進行がなければ、
  30歳ならば、1年~3年ほどで、神経再生に伴い、痛みが出てきます。
  50歳ならば、3年~8年ほどで、神経再生に伴い、痛みが出てきます。
  70歳ならば、5年以上経つと、神経再生に伴い、痛みが出てきます。
  80歳を過ぎると、その神経の再生は生じない事が多くなります。
鎮痛効果の持続期間は神経の再生能力に拠るので、個人差が大きく、実年齢と一致しないことがあり、上記は目安です。
 

(*2) 高周波熱凝固 Lower thermo 法:運動神経は太く、熱により障害を受け難いのですが、知覚神経は細く、熱により障害を受け易いことが知られています。45度~50度の範囲で神経を熱に晒(さら)すと、知覚神経は障害されるのに、運動神経は障害され難い状態を作り出せます。この様な低い温度で神経処理をすると痛みは軽減されるのに、手足は自由に動かせるような治療が可能となります。

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